エラスチンの研究

[1]エラスチンとは

[2]高純度水溶性エラスチンの単離・調製

[3]エラスチン由来ポリペプチドの設計・作製

[4]エラスチン及びエラスチン由来ポリペプチドのコアセルベーション特性


[5]エラスチン及びエラスチン由来ペプチドの細胞遊走作用

[6]エラスチンの応用研究

[7]エラスチンの分子病理学


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[1]エラスチンとは
 エラスチンは大動脈をはじめ、項靭帯、黄色靭帯、肺、皮膚、子宮、弾性軟骨などの弾性線維の主要蛋白質である。エラスチンは生体内ではコラーゲンに次いで多量に存在し、そのもっとも重要な機能は弾性である。エラスチンは組織では不溶性であり、その不溶性からコラーゲンに比べ研究が大幅に遅れていたが、少しずつその全貌が明らかになってきている。今後さらにエラスチンについての研究が進行するとともに性質や構造解明だけでなく、食品開発やバイオマテリアルなどへの応用的な面からの取り組みもなされることが期待されている。

   
                   図1:エラスチンの生合成

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[2]高純度水溶性エラスチンの単離・調製
 エラスチンはこれまで化粧品などに活用されているが、そのユニークな物理特性や生物学的機能、生分解性などから食品開発やバイオマテリアルへの応用が期待されている。応用するには不溶性エラスチンを可溶化した水溶性エラスチンが大量に必要となってくる。しかし、従来の単離・調製方法では低純度の水溶性エラスチンしか得ることができておらず、さらに高コスト、手間がかかるなどの問題点があった。そこで当研究室では未利用資源の生体組織から簡便な方法での高純度水溶性エラスチンの単離・調製の検討を行っている。

               

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[3]エラスチン由来ポリペプチドの設計・作製
 エラスチン中の主要な繰り返しペプチド配列としてペンタペプチドGly-Val-Gly-Val-Pro(以下GVGVP)及びヘキサペプチドVal-Gly-Val-Ala-Pro-Gly(以下VGVAPG)の繰り返し配列がある。この2種類のペプチド繰り返し配列はヒト、ウシ、ブタ等の哺乳動物に共通して存在するが、性質は全く異なり、GVGVP繰り返し配列は弾性機能を有し、コアセルベーションを示すが、細胞には全く認識されない。一方、VGVAPG繰り返し配列は弾性及びコアセルベーションを示さないが、種々の細胞の遊走、増殖などを惹起する。
 これらのエラスチン由来ポリペプチド及び誘導体は当研究室では液相法により化学合成しているが、共同研究先のUrry教授(米国ミネソタ大学)から遺伝子組み換え技術で作製したものも提供してもらっている。

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[4]エラスチン及びエラスチン由来ペプチドのコアセルベーション特性
 不溶性エラスチンを可溶化して得られる水溶性エラスチン、前駆蛋白質であるトロポエラスチン(可溶性)及びエラスチン由来ポリペンタペプチドは、コアセルベーションと呼ばれるユニークな現象を示す。水溶性エラスチン及びトロポエラスチンの水溶液は、低温では透明な均一溶液であるが、体温(37℃)付近まで加熱すると、相分離を起こして白濁しコアセルベート液滴を形成し、そのまま放置するとコアセルベート層からなる下層と平衡溶液からなる上層の2層に分離する。このプロセスは可逆的で、温度を室温以下に冷却するとまた元の均一溶液に戻る(図2)。昇温及び降温による濁度の様子を縦軸に400nmでの吸光度、横軸に温度変化をとってプロットすると図2のような曲線が得られる。このコアセルベーション特性はエラスチンの自己集合による弾性線維の形成を理解する上で非常に重要である。

                  図2:コアセルベーション特性
     
             図3:コアセルベーションの可逆的温度プロフィール

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[5]エラスチン及びエラスチン由来ヘキサペプチドの細胞遊走活性
 水溶性エラスチン及びエラスチン由来ヘキサペプチドは単球/マクロファージに対して遊走活性を有する(図4)。また、線維芽細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞、腫瘍細胞等に対しても遊走活性を有する。遊走には細胞の種類によってプロテインキナーゼCが関与する場合もあれば、cGMP依存性プロテインキナーゼが関与する場合もある。また、非インテグリン型のエラスチンレセプターとして、細胞膜表面に存在する67kDaのエラスチン結合蛋白質(EBP)が知られているが、細胞の種類によっては67kDa以外のEBPが関与している可能性があり、異なるレセプターの同定、細胞内の情報伝達メカニズムの解明等を検討している。
    

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[6]エラスチンの応用研究
@DDS担体への応用
  エラスチンをDDS担体へ応用することの利点に、コアセルベーション特性、生分解性、抗原性が低いことなどが挙げられる。エラスチンは、体温付近の白濁した状態ではナノオーダーのコアセルベート液滴を形成しており、この状態でγ線照射を行うと架橋し、ナノ粒子が形成される。このナノ粒子に薬物を取り込ませ、徐放試験を行う等、DDS担体への応用を検討している。

A組織再生の足場への応用
 弾性を有するエラスチン及び剛性を有するコラーゲン共存状態を足場にした組織工学の面から、損傷組織・器官の代替のための再生組織の作製を目指した医療への応用を検討している。

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[7]エラスチンの分子病理学
 動脈硬化における内膜肥厚は、血中から動脈壁内に進入してきた単球のマクロファージへの分化とエラスターゼ産生に伴う中膜エラスチンの分解、中膜平滑筋細胞の合成型への形質転換と内膜への遊走等の複合した要因で起こると考え、エラスチンに焦点を当てて動脈硬化の発生メカニズムを検討している。また動脈瘤についてもMMPやエラスターゼの産生と共にエラスチンの著しい減少が観察されており、エラスチンに焦点を当てて動脈瘤の発生メカニズムを検討している。

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