細菌毒素は、病原性だけでなく、その強力な殺傷性から生物兵器として利用されるなど、我々にとって決して好ましいものではありません。ところが、そんな毒素が医療や農業分野で応用されている(され始めている)といったら驚かれるでしょうか。研究室ではそんな毒素のパラドックス(逆説)に注目してBt菌を中心に研究しています。

ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は、地球上でもっとも毒性が高い物質の1つです。この毒素が体の中に入ると、神経から筋肉に刺激が伝わらなくなり、筋肉の弛緩や麻痺が起こり、死に至ることもあります。しかしそんな強力な毒素でさえ医療の分野で利用されています。この毒素薬はボトックス(Botox)という商品名で使用されており、各種筋緊張異常症(ジストニア)に対して非常に有効な効果を示します。この薬の実態は極微量のボツリヌス毒素です。近年、ボトックスは美容外科領域において、筋肉の収縮によって起こる顔のしわ伸ばしなどに利用されています。

そもそも、Bt菌も殺虫性毒素を生産するバクテリアとして発見されました。その後、この毒素の特異的な毒性を利用して、作物の害虫を防除する生物農薬として使われています。さらに遺伝子組み換え作物の中には、この殺虫性毒素遺伝子が使われています。

このようにバイオ技術の進歩とともに、「毒素もまた重要な生物素材としてとらえ、この作用を解明し、医薬や環境分野に活用する」ことが、研究室の大きな目標です。