laboratory manual

坂本研、研究の手引

        (04年度HP版)


  これは『坂本研、研究の手引き』から一般的な事項を抜き出したものです。より詳しい手引きや具体的な実験に関わるマニュアルは研究室常備の原版を参照して下さい。



I.最も大切なこと


  よい結果を出し、研究を進めること。そしてそれを公表できる形にすること。
  ここでいう「公表」とは、学内での公表(卒論や修論。日本語)を含むが、より根本的なのは学界・世界に向けて発表すること(欧文投稿論文、学会発表)です。

 1)卒論、修論の研究にはこのように二重の意味があります。学内では「学生個人の課題」という意味を持つので、例えば年度末の発表会では「自分自身の研究」として話す必要があります。いっぽう学界・世界に対する学術的意味としては、学生と指導教官との「共同研究」というような位置づけになり、ときには複数の学生と教官、あるいはさらに学外の研究者も含めた真の意味での共同研究の一部である、という場合もあります。

 2)大学院生は卒業までに必ず1度は学会発表をしてもらいます。卒研生も含め、欧文投稿論文に通用するデータを出してください。



II.基本的なこと

A.自分で考えること。


 1)なぜこういう結果が出たか、次に何をすべきかなど、自分で考えるよう心掛ける。自分の出した実験結果を、大量生産の一製品のようにではなく、芸術家の自信作のようにながめ回しなで回しなめ回すほどに執着しよう。

 2)ただし自分の立てた計画は、実行する前に指導教官に相談しよう。

 3)自分のテーマはあくまで自分が中心である。指導教官以外の助言はあくまで「助け」であって、目的に応じて助言とは異なる実験条件を使うことなどは、自分(と指導教官)の頭を使って決めよう。
 例えば、「なぜこんな変なことをしたの」と尋ねられた時、「自分では理由も論理も分からないが、先輩が『こうだ』と言ったからそうした」などと言わないですむように。

 4)様々なレベルの知識を総合して考えよう。研究室に配属してから得た知識や、これまでの講義・実習での知識(酵素反応には温度依存性があること、など)はもちろん、自炊の体験(効率的な洗い物のし方、粉体の取り扱い方)や、旅行の計画(先を見越して準備すること、人との打ち合わせ、時間調節、譲れぬことと切り捨ててもよいことの区別)などさえ役立つ。


B.人と話すこと。


 1)指導教官への相談をおしまない。実験結果は出るたびに見せよう。区切りがつきにくい一連の実験でも週に1回は見せる。

 2)わからぬことは人にきく。わからぬ人には教えてあげる。きけばしないで済んだ失敗をしないよう。

 3)理解は対話によって深まる。そもそも科学は対話(反論、再反論...)によって進む。卒研発表会の質疑応答のような種類のことは一朝一夕にはできるようにならないので、ふだんからお互いに質問しあおう。

 4)少なくとも同じ研究室の人とは(できれば他の研究室の人とも)研究について話そう。他の研究テーマと共通の実験操作、考え方は数多い。たとえ今すぐには不要なことでも、数週間後、数か月後に必要になることも多い。したがって研究室ではラジオを聞いたりマンガを読んだりせず、人と話すこと。たとえ世間話でもラジオよりまし。(ただし、日曜日などに一人で実験している時などは別)


C.記録を採ること。 --- 科学の基礎の基礎。


1. 実験ノ−ト 

 
 1)詳しく書く。結果の思わしくないことも書こう。例えば酵素反応測定を室温でやったときは「室温(XX℃)」と書く。

 2)ノートはすぐ書こう。実験計画時、実験中、また実験直後に。「数日後にまとめてきれいに書こう」とすると書きもらしが増えます。またメモ用紙に書かずノートに書くように。

 3)ノートを書くこと自体が目的ではない。後で役立つことが目的。空白を作らずつめて書こう。繰り返したことは、「BK#71-1, p36 に同じ」などと1行だけ書けばよい。

 4)全体にペ−ジを打ってください。初めに2ページ分目次をつけ、日付・題目・ページを書くように。


2. ファイルブック(クリアファイル) 

 
 1)データは、日付けや実験ノートの該当ページ、実験条件などを書き込んだ上で、前から順に、すべてクリアファイルに入れよう。生データ(プリントアウト)を捨てたりしない。また、生データは直接フリーハンドでなぞり書きをしない。なぞる必要がある場合はトレーシングペーパーなどを使う。

 2)データと実験ノートとは、学生が不在の時に指導教官が見ても対応がつくようにする。

 3)参考論文や中間報告のプリントなども後で役に立つので整理しておく。


3. サンプルや試薬溶液 


 1)試料や試薬溶液などの容器には、次の3点を書き込んでください。
  (a)品目名、(b)日付(年月日)、(c)自分の名

 2)エッペンドルフチューブは小さいので、(b)(c) は箱単位で書いてもよい。

 3)研究室内のみならず学科共通の部屋(特に低温室)やディープフリーザーに、名前を書かないでものを放置しないように。




III.実験上の心構え


A.全般


 1)早い時期から「のる」ことが大切。
* 「のっているか否か」の自己判定法:人の助言を、「次々に面倒が増えていく」と感じるようなら、まだのってない。「なるほど、有難い、役に立つ」と感じるようなら、もうのっている。(ただし人の助言が常に100%正しいとは思わないように)

 2)実験には次の2つの段階がある。気をつけるべきポイントなどが異なるので、どちらの段階か意識しながら実験しよう。
 (a)まだ予想が立たない事柄について、およその感触をつかみたいために行う探索的実験。
 (b)ほぼ明らかになった事柄について、測定の制度を上げたりデータの不足を補ったりして図表をきちんとまとめるための公表用実験。


B.準備


 1)研究のテーマと実験の手順は、すべて理解するよう努めてほしい。不明なら遠慮せず問い返そう。
 (a)結論だけでなく、方針や理由、条件、論理の流れも理解してください。これは、条件が変わった時などに臨機応変に対処してほしいからです。
 (b)講義では80%の理解で「優」が取れるが、卒業研究では100%理解してほしい。分かるまでいくらでも遠慮なく聞き返そう。

 2)翌日やる実験の手順は前日決めておき、空時間をうまく組み合わせて手早く終わるよう計画しよう。
 3)実験の先を考えて準備しよう。中断せざるをえなくならないように。例えば、サンプルをセントリコンで濃縮した後でHPLCにかける場合、遠心している間にHPLCのカラム交換や前洗浄をしておく。


C.実施


 1)はじめての実験操作をやるときは、プロトコールを読むだけでなく、習熟している人(教官、先輩、他研究室の人など)に細かく聞きながらやろう。聞かずにやると、例えば培地やブロトーのpHを合わせない、SDS-PAGEで"pre-run"をやってしまう、"only for air ventilation"のフィルターを水溶液試料に使ってしまう、などの間違いを犯しやすくなる。

 2)各実験で「コントロール(対照実験)」をとろう。
 (a)ポジティブ-コントロールpositive control;例えばある酵素試料が「酵素活性を示さない」という場合、本当にそれがその試料の性質なのか、あるいは測定手順のどこかに問題があるだけなのか判定がつかない。この場合、活性を示すことが前もって分かっている試料も同時に測るとよい。
 (b)ネガティブ-コントロールnegative control;(a)と逆のコントロール。
 (c)前回と重なる測定点;例えばある酵素の阻害を調べる場合に、前回100 mMまででは薄すぎたという場合、次は200 mMから上の濃度でいいかというと、ふつうは100 mMの測定点も含めるべきです。これは、同じはずの実験でも必ずしも実験結果が同一にならない場合もあるからです。

 3)作業を機械的にはやらないように。機械を自動的には信用しない。自分のチェックを入れる。

 4)実験手順の一段階ずつをよく確かめながらやろう。例えば、10段階からなる実験の各段階が90%の正確さだったところを、99%の正確さに改良すると(1割の改良)、結局成功する確率を35%(0.9の10乗)から90%(0.99の10乗)に上げることができる(16割の改良)。

 5)頭を使えばやらないですむ失敗をしないように。説明書のついている製品(HPLCカラムや酵素キットなど)を使うときは、「実験法ファイル」のほかに、その説明書も読んでください。

 6)実験の手順には、広く使われている標準的なものがある(『坂本研実験の手引き』のファイルに実例多し)。これらを、特殊な条件に応じて変形することが必要な場合もあるが、その変則的手順はいつまでも続けず、その特殊条件がはずれたらすみやかに標準的な手順に戻そう。

 7)無駄で余分な手間をかけないよう。例えば、同じ組成の液10 mlを2回使うときは、先を見越して20 ml作る。また、HPLCにはスタンダードと各サンプルを続けてかけよう、2日以上に分けてやると平衡化や洗浄が二重手間になる。

 8)共通機器も活用しよう。ただし使い方をよく理解し、各管理者の指示に従がったうえで。

 9)壊れやすい実験器具(ピペットマンやSDS-PAGEのガラス板)を机の端に置かないように。


D.片付、考察


 1)実験の区切りがつくたびに器具・溶液を片付けよう。夜帰る前に各自チェックしてください。冷蔵・冷凍保存のものを室温や氷上に放置したまま帰らないように。

 2)「奇妙な結果」には必ず原因がある。できるだけ追及する。「同一の条件でやったのに結果が違っていた」というとき、実は「無視していながら重要な条件が違っていた」ということが多いので、よく思い起こしてみよう。




IV.研究室生活


A.社会常識など


 1)研究室に配属された人は、お客様ではなく構成員です。「レストランの客」ではなく「キャンプの共同炊飯の一員」のように行動しよう。

 2)平日の日中は基本的に研究室で実験(あるいは勉強)する時間です。研究の着実な進行には実験時間の確保がまず基盤になります。

 3)実験は朝早めに始め、主に日中にやろう。少し慣れたという程度の段階で主に夜やるようになると、適切な助言が得られないため落とし穴にはまることが多い。

 4)用事で欠席・遅刻・早退する時は前もって指導教官に言おう。病気や急用の時は当日電話を入れてください。

 5)不調な機械・器具・溶液などを見つけたら放置しないですぐ担当者に伝えよう。機械は残念ながら自然治癒しない。

 6)ゴミは正しく分別しよう(実験室の貼り紙参照)。できる範囲で節電、節約、省資源に努めてください。研究室は禁煙、禁酒。実験台では飲食しないように。机や床を汚したらすぐきれいにしよう。


B.セミナー


 セミナーには必ず出席すること。自分の研究テーマに直接の関連がない研究・論文でさえ、参考になることは多い。予習しているうちに出てきた疑問点は前日までに教官に聞いてください。

 1)研究セミナー;週一回。英文原著論文の紹介と、研究の中間報告。論文紹介はA3の配布用プリントを作成し、中間報告はプレゼン用資料を用意して臨む。年に3巡ずつ程度。

 2)勉強セミナー;週一回。関連分野の基礎を勉強するため、教科書や総説などを輪読。年により、学部高学年や大学院の適当な講義で代替することもあります。

 3)面談;各人週一回。ノートとデータファイルをもとに、指導教官と1対1で簡単な中間報告。

 

C.係り


 係りは必ずしもすべて自分でやる必要はありません。作業量の多い場合は他の人にも「やってくれ」と指示するのが職務です。特に忙しい係りには他の人も協力して下さい。

 1)セミナー係;  セミナーや検討会の時間の調整。合同セミナーでの曽根研との時間調整、連絡。外来セミナーの時のプロジェクターの用意や机の配置替え。

 2)文献・文書係;  実験室の本棚に置く本や修論・卒論(フロッピーを含む)の管理。アンケート・提出書類等の取りまとめ。

 3)コンピュータ係;パソコン、ネットワークの管理。

 4)物品係;    ビニール袋・ペーパータオルなどの買い出し。ファンヒーターや扇風機の収納。冬場の灯油の調達。

 5)洗い物係;   ピペットの洗浄(細いパスツールピペットも)。放置された汚れ物について本人に注意する。乾いた器具を所定の位置に戻す。共通のタオルの洗濯。

 6)掃除係;    実験室と分室の掃除の指揮。割り当てられた学科共通の部屋の掃除の指揮も。

 7)イベント係;  歓迎会・ハイキング・忘年会などの企画、調整。アルバム整理。他。

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