研究室概要

背景と将来像

生命の設計図とよばれるゲノム配列情報の解析が急速に進行している。大腸菌、酵母、線虫、マウス、ヒトを含む多数のゲノム配列が完全に決定された。個々の生物現象を丹念に調べるという従来の生物学のイメージとは異なる、生命システム全体を分子レベルから体系的に理解しようとするゲノム生物学やシステム生物学が発展している。複雑かつ膨大な化学反応からなる生命システム全体をいったいどのように理解したらよいのであろうか。生命をシステムとして考えるという言葉はほぼ決まり文句のようになりつつあるが、具体的な方法論はほとんど提示されていない。

システムを理解するとはどういうことであろうか。しばしば引き合いに出されるが、コンピュータに例えてみよう。キーボードをいくらたたいて入力と出力の関係を調べてみても、現象論的なことはわかるが、コンピュータの内部の構造や機構を知ることはできない。まず、ソフトウエアとハードウエアがあるということを知らなければならない。ハードウエアを理解するためにはどうするであろうか。賢明な人ならば、分解して個々の素子を調べ、お互いの素子の関係を明らかにするであろう。それをもって、完全な理解といってよいであろうか。分解した素子から再び元のコンピュータに復元することができてはじめて、本当に理解したとよべるのではないだろうか。

生命も同様であろう。分子生物学の進歩によって、基本素子である分子から生命現象が説明されるようになっている。言い過ぎかもしれないが、生命を理解するということは、分子から生命を合成できるということと同義であろう。実際、細胞の生命活動に最低限必要な遺伝子が示唆されており、それをベースとして生命体を構築する日が近い将来くるかもしれない。

用語説明
【ゲノム】:遺伝情報が書かれているDNAの総体

目的

本研究では、細胞を合成する(工学で言う設計する)ために必要な計算技術(システム工学、情報科学)、実験技術(遺伝子工学)を開発することを目指している。
 細胞のような複雑かつ巨大なシステムを構築するためには、高層ビルや航空機を設計する工学技術と同様に、コンピュータシミュレーションを取り入れた合理的設計方法が必要である。そのために、生命の設計原理を明らかにし、それを基に生命システムを合理的に設計する技術(CADLIVE)を開発する。
 開発した技術を用いて、医療やバイオ分野の発展に貢献する。

戦略と戦術

1.生命の設計原理の解明

2.生命システムの設計に向けて:細胞のサブシステム(モジュール)の分解と合成

3.創薬や微生物化学工業への応用

用語説明
【ロバスト】:外から邪魔が入ってもあまり影響を受けいないことを意味します。簡単に言えば頑健です。人に例えれば、「ずぶという、あつかましい」ということでしょうか。

学術的・社会的意義: 医療やバイオ産業に貢献

バイオテクノロジーや医療の進展に貢献する。生命設計技術は、有用物質を合成する微生物の根本的な改良に有効である。バイオリアクターで微生物による物質生産する場合、その生物は本来の厳しい自然環境にあるわけでないので、ストレス応答、サバイバル応答などに関わる遺伝子は直接的には必要ないかもしれない。人工的環境で微生物の生産性を最適化することができれば、バイオ産業にとってたいへん有益である。
 一方、生体分子ネットワークの構造・機能の関係を知ることによって、がん細胞を死滅に導くための標的分子を発見することが期待される。新規な治療薬の開発につながる。
 本研究は生命システムの完全な理解という意味で生命科学に貢献するだけでなく、人工物設計のためのシステム工学に大きな影響を与える。

メッセージ

医療やバイオ産業における人類の未来に貢献する生命科学、情報科学、そしてシステム工学を融合した新分野の開拓を目指そう。大事なことは、研究しようという意欲です。この分野は新しい分野なので、深遠な理論や方法論はほとんどありません。これから大きく発展しますので、意欲があれば必ず道は開けます。
 研究室は、コンピュータを用いた研究が主体ですが、産業医科大学と共同実験を行っています。実験に興味のある方は是非相談してください。
 これからは講義や演習のように与えられた課題を解くのではなく、自分自身で問題を見つけて発展させていくことが求められます。未知の分野を拓くことで知的冒険を楽しみましょう。
 研究成果が出れば学会発表ができます。大学院学生は毎年国際会議で発表を行っています。