【はじめに】

研究で最も重要視していることは、「確実な生命現象は研究者を裏切らない」です。 北田研究室では、生命における「未知な現象」を研究の出発点にし、広く生命科学の教育と研究、応用に取り組みたいと考えています。微生物から高等動物にいたるゲノム情報、タンパク質や動物個体から、生命・農学・医学に有用な分子の発見と応用を目指します。

これまでの研究紹介

「ミトコンドリア形成に関する研究」

 ミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ(MPP)の構想と機能に関する詳細で先駆的な酵素学、構造生物学的研究を行った。  MPPはミトコンドリアに輸送されてきたタンパク質のプレ配列(輸送シグナル配列)を特異的に認識し切断する(下図)。  このプレ配列は長さや一次構造に共通性が乏しい。一般性に欠ける構造情報をMPPはどのようにして特異的に認識しているのか?  またこのようなシグナルの認識をバクテリアの共生進化でどのように獲得してきたのか? 私はMPPの構造・機能解析からこの分子機構の解明を行った。(九州大学)


 

「毒素によるがん細胞作用の分子機構」

 Bacillus thuringiensis(Bt菌)は、菌体内に結晶状に蓄積されているタンパク質が病原毒素であり、特定の昆虫のみに殺虫活性を示し、人畜や環境に影響を与えないことが明らかとなっている。 現在、数百種類におよぶその殺虫性毒素タンパク質遺伝子(Cry)が、有害昆虫を駆除するための環境に安全な生物素材として研究され、その一部は組み換え作物(トウモロコシなど)として利用されている。さらに最近では、病原媒介昆虫(例えば病原ウイルスを媒介する蚊など)の駆除といった観点から応用されている。 一方、我々は特定の腫瘍細胞(肝臓がんや大腸がんなど)に対して毒性を示すが、正常細胞には影響を与えにくい、新しいBt菌毒素タンパク質(パラスポリン2)を発見した。 なぜパラスポリン2はがん細胞に作用するのであろうか? おそらくはがん細胞表面に存在する腫瘍分子を認識して細胞毒性を発揮している可能性が高い。 抗がん性毒素作用や細胞特異的表面分子の発見は、がん医療の新しい開発につながる可能性がある。また、共同でパラスポリン2の立体構造を明らかにした(下図)(九州大学-九州工業大学)

 「北田 栄」